……どうしたの? 頭の上から声がする。 眠いんだ。とても 無意識に言葉を返してから、今どうしてそんなことを言ったのだろうと考える。 今、誰かの肩に頭を寄りかからせている。それは分かった。 しかし、それ以外……何処にいるのか、誰の肩に頭を寄せているのか。 酷く景色が、認識が曖昧で……わからない。 はっきりと分かるのは、今自分がまどろんでいること。 暖かい陽気に当てられて、満ち足りた気持ちのまま、ゆっくりとうたたねをし始めた……そうであることが分かった。 寄せた肩から伝わる体温が心地よい。全身に柔らかい日差しが当たり、心地よい風がさわさわと木々を揺らす音がする。そして風は髪を揺らし、髪は頬をくすぐった。 そのとき、ここに初めて木々があるのだと思った。そういえば、風の中からかすかに鳥の声がするような気がする。 ここは森の中だろうか。 そう思ったとき、みどりの匂いが鼻をついたような気がした。あの、雨が降った後の、匂い。 木の葉たちのの囁くような歌がまた流れ込んでくる。 酷く、眠い。 いつも眠いって、言ってない? 声……柔らかで、優しい……包み込むような声。でも、誰のものだか見当が付かない。 それに笑いを含んだ声が更に自分をまどろみの奥に誘う。 そんなことがあっただろうか。 何もかもが満ち足りて、誰かに全てをゆだね、それに安心したままただ転寝をしていたことが。 誰かの前で眠いなどという言葉はほんの小さい頃の記憶の中でしか吐いたことがない。 睡眠不足で眠かったとしても、眠ってはいけないところでは眠らないし、眠るべきところでのみ睡眠をとっていた。 そうでなければ、生きていけなかったから。 眠くなるような暇は殆どなかった。 悲観しているのではない。現実として目の前に常に付きまとっていた。常に自分自身でのみ自分を保っていかなければならなかった。 それを怠ることは、死を招く。 いつの頃からだったかは覚えていないが……それが今まで放浪していて知ったことだった。 その現実を酷いとは思ったことはない。 いや、昔は思っていただろう。しかし、今はそんなことを考える感覚がなかった。 諦めていたのだ。自分の現実は、こんなものなのだと。 しかし、これは何だろう。 眠くて眠くて、仕方がない。 あたたかい。 ここちよい。 ……ここがあんまり気持ちがいいから。 曖昧な意識のままで、てんでばらばらな思考をしながら、ふと思い至った。 あぁ、これは……夢なんだ。 こんなに安らぐ夢をみたのは初めてかもしれない。 夢で、安らぐ。 ……そんなこと。 目が覚めたら自分はその夢を嘲うだろうか。 もしかしたら、覚えてすらいないかもしれない。 安らぎを忘れ、また現実を見るのだ。 でももう、そのときはどうでもよかった。 頬を撫でる風と、頭を預けた肩に……全てをゆだね。 俺はただ、あたたかい陽気の中でゆっくりとまどろむ。 |