「いってぇええ……」
船倉ちかくの暗い部屋から出てきたハーヴェイは、頭を押さえてうめいた。
懺悔室で降って来たタライはかなり効いた。噂には聞いていたが、まさか自分がこんな目に遭うとは思わなかった。シグルドが行って帰って来た後、いたく感動していたので、どういうものか興味を持って入った結果がこれだった。
「ちくしょう、覚えてやがれ」
色々と妙な質問を、彼の中では比較的まじめに受けた挙句この始末。ハーヴェイは不機嫌だった。
ぶつぶつと悪態をついて頭をさすっていると、背後から声がかかった。
「どうかなさったんですか?」
「どうかなさった……って」
振り返ると、そこには見知らぬ金髪の女が立っていた。赤い服になんとなく見覚えがあるような気がしたが、誰だかはわからない。
「お怪我でもなさったんですか?」
「いや……そういうわけじゃ……って、あんた誰だ?」
「あ、初めまして、フレアです」
「あー!あの短パン王の娘の!」
「短パン王……」
フレアは自分の父のあだ名を呆れたように呟いた。それに慌ててハーヴェイは自分の失言をわびる。
「いいんです、父はいつもああいう格好ですから」
「そ、そーか…」
自分に怒るというよりは父親の振る舞いに呆れているようだ。某王を見る限りではきっと昔からああいう男なのであろうことは、容易に想像できる。イヤな金持ちや王族は嫌いなハーヴェイだったが、その「イヤな金持ちや王族」からある意味外れたリノを、彼は呆れ半分だったが、割と気に入っていた。
しかし、あの正装はいただけないよな、とどうでもいい事を思い出す。アレだったらまだ短パンの方がいい。
「それで、どうなさったんですか?」
「ん? あー……いや、別に」
問われて、一瞬何のことだかわからなかった。すぐに懺悔室での出来事を思い出したが、今は別にいいと思った。彼女に言ってもしょうがない気がしたからだ。あとでシグルドに思いっきりイヤミを言ってやる、と思うことだけにとどめた。
「それよりお前……フレア? なんでこんなとこにいるんだ?」
第4甲板は船倉に近い。医務室と図書室、個人の部屋があるくらいで、フレア王女がやってくる場所でもないような気がした。ちなみにハーヴェイの部屋はキカの船にあるのだが、最近はオベルの大船にいることが多く、第4甲板の空き部屋を間借りしている。
(あー……でも、図書室に用があるのかもな)
王女なんだし、と一人で思い直していると、うつむいたフレアは少し恥ずかしそうに言った。
「あの……わたし、迷ってしまって」
「迷った?」
少し顔を赤くして、頷く。
「そうか、じゃあおれが案内してやるよ」
「え、」
「まぁ、おれも全部わかっちゃいるわけじゃあねーけど。行きたいトコなら連れてってやる」
頭をかきつつ、視線を泳がせる。それにフレアは驚きつつも「お願いします」と頭を下げた。
そうされて、ハーヴェイは妙に不思議な気分になった。頭を下げられるようなことでもない。
(てか、なんでおれ……)
自分の行動に少し首を捻るが、まぁいいかと思い直す。
「あ、あの…」
「なんだ?」
「お名前、なんていうんですか?」
「ああ。ハーヴェイだ」
教えると、フレアはそれを口の中で小さく反芻していた。なんとか名前を覚えようとしているらしい。一拍置いて、またペコリをお辞儀をする。
「よろしくお願いします、ハーヴェイさん」
名前を呼ばれて、彼は少し顔をしかめた。鼻でふっと息を立てて、頭をガシガシとかく。
「あー。堅苦しいのはナシな。おれそーゆーの苦手なんだ」
「え?あ、はい」
首をかしげる彼女をよそに、ハーヴェイは背をむけた。
「で、どこ行きたいんだ?」
「え、えっと、作戦室なんですけど」
その単語を聞き歩き出そうとして、足を止めた。背後にいるフレアを思わず振り返る。
「……おいおい、全然違うトコじゃねぇか」
作戦室は第2甲板だ。明らかに違う。
「だから、迷ってるんです」
彼の呆れた物言いに少し気を悪くしたのか、口が少しとがっている。
「まー、そうだな。作戦室なら連いてく必要はねーか。目印あるし」
「え、そうなのですか?」
「あのおっさんが立ってるとこに名簿があるだろ?ズラーッとかいてあるやつ」
「おっさん……?」
聞きなれない言葉を聞いたような口調。ハーヴェイは額に手を当てる。
「あー……名前は忘れた。お前んとこの部下だろ、あのおっさん。ヒョロっとした、なさけねー顔の」
ハーヴェイの言葉が的を射ていたのかいなかったのか、フレアはくすりと笑ってその人間の名を言い当てた。
「デスモンドですか?」
「そんな名前だったかな。よくしらねぇが、あれを目印にすりゃいい」
「デスモンドを……ですか」
「階段使って第2甲板に行けばわかる」
「ええっと……わかりました」
と言って、彼女は階段を降りようとした。
「待て待て待て待て!」
ハーヴェイは慌てて彼女の腕を掴んで止めた。
「え?え?」
「……おれは、第2甲板って、言ったよな?」
「え、あ、そうですね」
「……で、なんで降りるんだ?」
「え???」
質問の意味がまるでわかっていないという様子。ハーヴェイは頭を抱えたくなった。
本当にこの群国諸島の国の王女なのか、疑いたくなる。
「だから……あーめんどくせー!」
説明しようとして、それを海に投げ捨てるように放棄した。そもそもそういうことは性に合わない。
「やっぱおれが連れてってやる」
そのほうが楽だ。わかりやすくて。
「あの、その…よくわからないんですけど、すみません」
「……気にすんな。行くぞ」


「ここだ」
作戦室前にたどり着く。何故かデスモンドは不在だった。リーダーと行動を共にしているのか、いつも突っ立っている場所には彼の姿はない。
「有難うございました、ハーヴェイさん」
これまた丁寧に彼女は頭を下げる。そのしぐさにハーヴェイは居心地の悪さが隠せなかった。
「あのなー……さん付けとか、敬語とか」
「はい?」
「そーゆーの堅苦しいんだって」
「苦手……?」
「そーだよ」
不機嫌そうに言うハーヴェイを見上げて、フレアは微かに笑った。
「えっと…じゃあ、有難う、ハーヴェイ」
「……だから、たいしたことじゃねーよ」
不機嫌そうな顔を直さずに、彼はふたたび彼女に背を向ける。
「じゃあな。もう迷うなよ!」




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妄想捏造爆走適当ハーフレ話発動。
ってか、この人(ハーヴェイ)ってもっと何も考えてない気もする。人を観察もしてない気もする。
猪突猛進フィーリング型?あたって砕けろ?
なんにしろ二人とも性格がつかみにくい(とくにフレア)ので、かなり捏造してます。ゲヘ。
そして続いてしまいます





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