南島、星空、希花。



「おいたーん!こっちだよお〜」
 照りつける南国の太陽の中、銀髪で色黒のまだ幼い男の子が、浜辺を走ってはしゃぎながら、やや遠めにいる男に手を振る。
 その男はまだ二十歳より少し前くらいの少年。こどもの呼びかけにも答えず、彼は立ち尽くしている。
 男……いや少年はわなわなと震えながら天に向かって叫んだ。

「俺はおぢさんじゃ、ねえええええ!!
 いい加減何度言ったら分かる、ラマータ!」


 まだ幼いラマータは少年の声の大きさに驚いたのか、きょとんとした顔をして立ち止まった。
 しかし、すぐにまた走り出して、「おいたん、おいたん」と手を振る。何故怒鳴ったのか全く分かっていない様子だ。
 ラマータの伯父であるクルトは肩を落として溜息をついた。


 クルトは子供が大の苦手だった。
 理由など挙げたらきりが無いが、本人曰く、一番の理由は、生意気。見ているとイライラする。のだそうだ。
「ウザいだけじゃねーか、ガキなんて」
 日頃彼は甥っ子の面倒を見ながらも、ぐちぐちとそんなことばかり言っていた。相当嫌気がさしているのか、クルトは家庭を持つ気はなかった。家庭イコール子供という安直な考えが元である。もちろんクルトも十八才の健康な少年であるので、よくある例に漏れず女性は大好きである。しかし、子供だけはどうにも好きになれなかった。
 その原因が、目の前ではしゃいでいる子供だ。クルトの兄であるロマルトは十九でさっさと結婚してしまい、一年後には子供を一人もうけた。それが、先程のラマータだった。今年で齢四つを数える。
 その幼子が三つを数えたばかりの頃から兄夫婦と南の島に住み始めたのだが、その子供はまだ二十歳にもなってないクルトを「おいたん」と呼びまわし、何が嬉しいのか煙たがる少年にくっつき回った。
 それを兄夫婦たちに『仲がよい』と勘違いされ、
「仲がいいんだから、安心できる」
「よろしくね!」
 などといった調子で子をクルトに預けて面倒を見させた挙げ句、今日などは遠くの都会まで旅行に出掛けてしまったのだった。クルトは、
「あれはぜーってえ俺が嫌がっているのをわかってる。目が笑ってた」
 ……などと彼らが出かけた後一人でぼやいていた。もちろん散々抵抗はしたが、兄の頼みと妙な凄みを見せる義姉にはかなわなかった。
 彼らがいなくなるというのなら、まだ物事をよくわかっていない甥を見るのは彼の役目だった。それを怠ったら後が怖いというのも手伝って、クルトは無理矢理押し付けられた形で、嫌々ながらラマータのお守りをしていた。

 押し付けられたとはいえ、放っておくわけにも行かない。仕方なくクルトは浜辺でラマータの遊び相手をしていた。
 砂遊び(少し燃えて丹念に仕上げた城をラマータに間違って壊された)、ビーチボール(全く続かない)、砂合戦(砂熱過ぎ)、エトセトラエトセトラ……
 ……遊びを重ねていくうちに、クルトはなんだか自分が阿呆に思えてきた。

 それでも、一度相手をしてしまったからには、ラマータが飽きるまで付き合わねばならない。そんな妙な意地をはり、クルトは日が暮れるまでラマータと海水ぶっかけ合戦を繰り広げていた。





……
メニュ