やはりこれはおかしい。 絶対におかしい。 どう考えてもおかしい。 今更気付いたわけでもなかったが。 やはり再確認させられる。 「だから!どうして飲酒禁止何ていう理不尽な『規則』があるんだよ? 絶対におかしい!」 色黒で、髪も黒い青年……クルトは質素な、しかし頑丈なテーブルを思いっきり叩いて怒鳴った。彼の向かいには、のんびり顔の青年一人、女性がひとり座っていた。彼らはクルトの兄夫婦だった。 「規則じゃないって。そういうふうにしなさいってこと。ちょっと不当だとは僕も思うけどね」 青年……クルトの兄にあたるロマルトは、のんびりと言う。 「不当ってあなた……。それじゃあなんだか私たちが独裁者みたいじゃないの」 女性……の方は、夫とは対照的にややきつめに物を言った。 ついで眼光も鋭くなる。 クルトは少したじろいだが、このことばかりはと睨み返した。 彼にとって彼らは独裁者に等しい。独、というのは不正確で、全く正確そのものでもあるが。 とにかく、負けっぱなしはクルトの意地が許さなかった。 弟と妻が暫く睨みあうのを交互にみやりながら、ロマルトは困ったように頭をかきつつ、席を立って言った。 「うーん、別にいいんじゃな」 「あなたは黙ってて」 マリアはにこやかにロマルトを沈めた。 「てなわけでダメだからね」 クルトはその二人の様子にむらむらと、今日何度覚えたか分からない憤怒を覚えた。席を立っていく二人に向かって再びテーブルを思い切り叩いた。 「とか何とか言ってまとめるなぁぁ! 俺は真剣なんだぞ!」 しかし誰も(何か言おうとしたロマルトはマリアに睨まれて何も言わなくなった)反応しなかった。 クルトは悔しそうに呻いたが、やはり誰も取り合わない。 クルトとその兄夫婦の家族は、都市機能全てが機械化された都市から遠く離れた自然あふれる南の孤島に住んでいた。 彼のの身体的理由と、兄夫婦の子供の教育のためであった。 身体的理由というのは、人酔い、乗り物酔い、機械オンチ、五感が優れすぎている、その他様々なのだが、 一番の理由としては、クルト本人が都会に嫌気がさしている、ということである。 ロマルト夫婦の教育云々の方も似たようなものだった。 もともと別に暮らしていた彼らだったが、 「この機会にいっそ一緒に住むか」 とロマルトとマリアが言い出し、クルトも面倒な家事をやらずに済むと賛成して、今にいたるというわけである。 しかしここで、クルトにとって大きな誤算が生じた。 兄夫婦の息子の存在だった。 名前はラマータ。今年で四歳になる。色黒で、まだ短い銀髪の少年は、父親の弟であるクルトが大好きになってしまったようで、二十歳にもならない叔父を 「おいたん、おいたん」 といってくっつきまわっているのだ。 思春期真っ只中のクルトにしてみれば、迷惑この上ない。 しかもこの子供の教育の為、などといって、彼は兄夫婦(主に妻であるマリア)にかなりの制約(本人曰く不当な)を受ける羽目になった。 先ほどのように、飲酒禁止、夜歩き禁止、親が出かけるときは子守り(自動的)云々……。 過激に言うと若い彼にとってはすべてが地獄だった。その地獄の中での救いが、禁止事項のひとつ、酒を飲むことだったのだ。 こっそり注文してはこっそり飲んでいたのだが、遂にこの日、マリアにばれてしまい、溜め込んでいた酒を没収されてしまった。 |