そうこうしているうちに、彼等は帰って来た。 「ただいまー!……あっ」 初めに入ってきたラマータが、立ち尽くしている叔父の姿を見て驚きと喜びの声をあげた。 「ただいまっとー……てあ」 「なになに〜?」 続いてロマルト、マリアが入ってくる。二人ともちょっと目を丸くしたが、すぐに笑った。 「よ、よう」 クルトが所在無さげにあいさつすると、 「おいたん〜っ」 ラマータが大好きな叔父に向かって突進してきた。ビックリした叔父さんだったが、よけるわけもいかず、そのままモロに受け止めてしまった。 「ぐへっ!」 「もーっ、何処行ってたのよ。ラマータが心配してたわよ?」 マリアが隣までやってきて言った。少し痛む腹を押さえて、クルトは悪態をついた。 「け。こいつに心配されるんじゃ俺も終わりだな」 「しんぱいってなに〜」 するとしがみついていたラマータが訊ねてきた。それをクルトが嫌そうに顔をしかめて引き剥がした。 「うえ、お前そんなことも知らんのか!ていうかいつまでもくっついてるな鬱陶しい!」 「あははっ。仲がいいなぁ。まぁいいじゃないか、もう帰ってきてるんだし。クルトももう大人だしさ」 両手に魚を入れたクーラーを持っているロマルトもやってきて笑った。 こちらにクルトはげんなりした。兄はなおもにこにこしている。 「好きでよろしくしてねぇよ……」 そのクルトをちらりと見て、笑いながらロマルトは隣の部屋にクーラーを置きにいった。 「おわっ!」 途中でビー玉を踏んだらしく、クーラーと共に壮大な音を立ててすっころぶ。 その様子を見て、息子は目を見開き、駆け寄ったが弟はこっそり舌を出した。 「まったく、何よこれはー……」 マリアがなにやらぶつくさいいながら床にぶちまけられた物を拾っている。 そこへ、ラマータが上着のすそをひいて 「おいたん〜ぼく、おさかなとったんだよ!さおもつかわなかったんだ!ほめてほめて〜」 と騒ぎ出した。 クルトはどっと疲れる思いがしたが、「素潜りだろ。何匹捕れたんだ」と一応聞いてみる。 「えーっとぉ……」 「あいててて………たしか七匹じゃないかな。僕なんか二匹だよ」 思い出せなさそうなラマータに変わって、腰をさすっている(こうするとまるでジジィだ、とクルトは思った)ロマルトが答えた。 彼らの数を聞いて、クルトは勝ち誇ったように絵にを浮かべる。腰に手を当て、声をあげて笑った。 「ふはははっ!たいしたこと無ぇな。俺なんか十五匹はくだらないぞ」 マリアが夕飯の支度をしつつふりむいて、高笑いしている義弟を半眼で見た。 「そーゆーとこがこ・ど・もなのよね〜。それでお酒のもうなんて……やれやれだわ」 「う、うっせぇ!うまいもんはうまいんだ!」 クルトが赤くなって抗議すると、ラマータが興味を持ったようで、マリアのそでを引っ張って、 「おさけってなに?」などと訊き出した。 何か危険を感じたクルトはマリアを遮って慌てて答えようとすると、 「子供にはぜ〜んぜん美味しくないものだよ、ラマータ」 まだ腰をさすっているロマルトが答えた。 「どれくらい?」 ラマータが目を大きく見開く。 「そうだなぁ、ピーマンよりまずいんじゃないか?」 ラマータが顔をさも嫌な風にゆがめると同時にマリアがふきだした。 「ぴ、ピーマンと比べられてるわよ、クルト?」 「フン。おこちゃまには適切な表現だ」 話を振られたクルトは無愛想に答える。 話題が酒の話になって、彼ははますます不機嫌になっていた。 「昔、おじさんもピーマン嫌いだったんだよ」 ロマルトが息子に耳打ちする。しかし他の二人に思い切り聞こえていた。 クルトは何か嬉しそうな母子の視線を感じて、怒鳴る気にもなれず、むしろ色黒の顔を真っ赤にした。 マリアがパンパンと手を叩いて、言った。 「さぁさ、せっかく魚がたくさんあるんだから、今日のディナーは魚にするわよ〜」 「おお、もうそんな時間か〜。で、魚で何にするんだい?」 マリアが胸を張って答えた。 「庭で塩焼きよっ!」 …………… 「……ああ?塩焼きィ?」 「……そりゃまたなんとも簡単だね……」 一瞬の沈黙の後、ロマルトクルト兄弟が同時に言葉を放った。ラマータだけが喜んでいる。それにマリアがむっとして、言い返した。 「塩焼きって美味しく焼くの大変なのよ?」 「いやそういうこと言ってるんじゃねぇんだが」 「あとそれにね」 もはや彼女の中では『今日は魚の塩焼き』と決定してしまったようで、続けようとしたクルトを無視しつつ遮った。そして信じられない事を言った。 「お酒もつけようと思うの」 ………………………… 「おお……?」 「え、なんで?」 これまた、しかも先程より長い沈黙の後、兄弟が以下略。 「おさけっておいしくないんでしょ?どうしてつけるの?」 ラマータが困ったように眉をひそめる。「ぼく、たべれないよ」 「ガキは食べんでいい」 ややはずんだような言い方でクルトが言った。やはり気になるらしい。長年(?)の念願が、お思いもよらぬ形で実現しそうなのだ。クルトが嬉しそうな様子を隠し切れていないのを見て、何か嫌な予感のした兄は妻に尋ねた。 「一体どういう風の吹き回しだい?あんなに嫌がってたのに」 「あのね、あたしお酒のこと全っ然知らないのよ」 マリアが皆に外に出るように促しながら答える。外は、もうすっかり暗くなって、満天の星が空を覆っていた。さっきまでは空が赤かったのに、とロマルトは思った。 確かに、ロマルトは妻が酒を少しでも飲んでいるところを見たことが無い。飲む機会が無かったのか、昔飲んでまずい事でもあったのかと思っていたが、本当に飲んだ事が無かったようだ。その間にも、クルトとラマータがぎゃいぎゃいいいながら外でかまどを作っている。 「そりゃ、どんなものか聞いた事くらいもあるけど、飲んだことって一度も無いのよね。だから、ちょこっと飲んでみて、どんなものか知ってからクルトにいわなきゃだめかなぁって、さっき思ったの。その方がクルトも文句言わないだろうし」 「へぇ……」 ロマルトが感心の意を示すと、マリアが照れたように笑って、没収した酒を取り出した。そこへ、かまどを作り終えたクルトが家口に戻ってきた。 「なぁ、ということは、ろくなもんじゃなぇってマリアが決めたら、本当に禁止になるのか?」 「まぁそういうこっとね〜♪」 「っけ、まるで賭けやってる気分だぜ」 クルトがやれやれと溜息をついて肩を落とした。ロマルトが笑う。 「おいたーん、おとぉたんおかぁたんっ!はやくやこうよーっ」 かまどの近くでぴょんぴょんはねているラマータに呼ばれて、三人は庭にでていった。 途中、マリアがクルトにたずねた。 「魚の塩焼きって肴としてはいいもんかしら」 「いや、最高」 クルトは即答した。そしてにやっと笑う。 「うまく焼けよ。せっかくの酒もまずくなるぜ」 クルトは後悔した。マリアに酒を飲ませたことを。 飲んだことが無い、こいうことが重なって、マリアはがんがんのんだ。ロマルトが飲むのを止めさせた時は、もう遅かった。焼いていた魚をおもいっきり焦がし、ケタケタ笑うわピーピー泣くわひたすら怒るわそのうちラマータもなきだして、静かな海辺は一変して騒がしくなった。 「マリアの奴、すんげぇ……酒乱だな……」 散々騒いだ後、突然酔いつぶれたマリアを寝かし、ラマータをなだめて、彼に何か適当なものをたべさせて寝かせた後、兄弟は重い重い溜息をついた。そのとき、やっと静かになった。 次の日、マリアがそのことを、全く覚えていない、でもお酒って本当に美味しいわね〜などとのたまった時、彼等は、もう二度と彼女に酒は飲ませまいとおのおの誓った。 クルトには飲酒の許可はおりたわけだが、マリアに見つかると自分も飲もうとするので、結局はこそこそ飲むのだった。 さて、こんなことがいつまで続くのやら。 兄は息子と遊びながらぼんやりと思った。
*************************後記** ハイ、あとがきです。 いやぁ、この人たちネタにしやすいですわ(なんのこっちゃ) 夏〜のほうを仕上げないうちにこんなもんアップしてすみません(汗) これは転載(モチ自分が書いたものですが)で、もともとパソに入っていたので早くアップできました。 パソコンで打ち出すの、どうも時間がなくて……。これからはパソに書き込んでからにしようかと。時間も増えましたから。 で、今回のですが…… 未成年がお酒の話をしてしまってすみません(汗 未成年の方は絶対に飲んではいけませんよー犯罪らしいですから。 因みにクルトのセリフの中にある魚が云々は身内からいただきました(もちろん成人した方からですが)。 所々わけわからんところありましたが……簡単な文章の潜めモノですのお気になさらず〜 ああ、文章へたすぎて涙が出てきます(泣) いつかぐっとくるはなしかきてぇ……(無理) ----- <成年に達してから> 酒酒煩い話ですね(笑) 子供っぽさが出てる気がしないでもない。……か? |