その『あいつら』三人は、釣りを終えて、海辺から家にとろとろと向かっている途中であった。
「ねぇ、おいたんかえってきたかなぁ?」
 ラマータが幼い舌ったらずな声で両脇の親に尋ねた。
「うーん、わかんないけど、魚焼くの臭いがすれば、きっと帰ってくるよ」
 父のロマルトが頼りない声で返す。もしこれをクルトが聞いたら、『人を犬か何か見てぇなこというなっ!』と怒るだろうとひとり思いつつ。
「それにしてもラマータ、素潜り上手だったわねぇ」
 マリアが優しく笑みを浮かべながら言う。彼女はその性質上、素潜りが抜群にうまい。それはラマータにも遺伝したようだった。その彼女が、
「クルトってばきっとすねてるわよ〜。だからいなかったんだわ」
「しょうがないよ。今はいろいろしたい盛りだしさ。それに君はこの件に関してかなりきついけど、別にお酒ぐらいいんじゃないか」
 兄が珍しく確固たる口調で言った。
「でも、ラマータの教育によくないわ……飲んだくれだなんて」
 とこちらも珍しく弱い口調で言った。
「あはは。あいつは酔っ払うくらい飲まないよ。前に父さんに熱く語ってたんだけど
 『肴がなきゃ酒はうまくないっ。酒あってこその肴、肴あってこその酒っ』ってね。おもしろいだろう?」
「さかな?おいたん、おさかなすきなの?」
 さかな、という言葉に反応して、ラマータが声をあげる。
「うん、めちゃ好きなんだって」
 笑いながら言っている夫に対して、妻はやや怒ったように返した。
「笑い事じゃないわよ……………まぁ、クルトには世話になってるけど」
 三つの声は、段々家に近づいてきた。



 声が聞こえて、クルトは急に自分のしようとしていることがばかばかしくなった。
「………………ばっかばかしい」
 床に思いっきり拳を叩きつけた。今までしてきたこと、今していること、これからしようとすること、全てが無性に馬鹿らしくなった。
「ばかばかしいったらありゃしねぇ……」
 クルトの目に、荷物の袋が目に入った。ほとんど物が入ってない袋。
 それをひっつかみ、中身を床にぶちまける。中身の無い写真立て、ボロボロの布切れ、一戸しかないビー玉、薄い服、ハンモック用の切れてもう使えない綱、短剣、篭手などなど、おおよそ統一性の無いものばかりが出てきた。
 ビー玉が持ち主の方に転がってきた。持ち主はそれを拾わずに無言で立ち上がった。
「くだらねぇくだらねぇ。ああくっだらねぇ。なぁにやってんだよ全く」
 西日に光るビー玉から目をそらして、顔を片手で覆った。












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